第1回 イントロダクション

映像情報メディア技術基礎(ISC151)/ 2026年度 秋学期
2026年9月10日(木)2-3限 10:10–12:50 国際基督教大学 情報科学メジャー
担当: 太田啓路 ohtak@icu.ac.jp
TODAY

今日の流れ(150分)

時間内容
10:10自己紹介・この授業について(ポジション・目的・スケジュール)
10:35太田の制作事例 ① 仕事(映像関連) — 3作品
11:25休憩(10分)
11:35太田の制作事例 ② 生成AI — 5作品
12:15ミニワーク(3人グループ・20分)
12:40コメントシート(授業時間内に提出)

後半は 1作品につき「何を作ったか → どう作るか → 難しかったところ → 実際の映像 → まとめ」の順で紹介します。
今日は PC 不要、メモだけで大丈夫です。

ABOUT ME

自己紹介 ① 研究者として

  • 太田 啓路(おおた けいじ)/ 情報科学メジャー シニアレクチャラー
  • 博士(国際情報通信学) — 早稲田大学 国際情報通信研究科 修了
  • 博士論文: 「安全かつ快適な3次元映像表現に関する人間工学的研究」
  • 研究テーマ: 3Dゲームにおける映像酔い(SEGA 共同研究)、立体映像のインタラクティブ応用
  • 一貫した問い: 「その映像は、人の身体にとって安全で快適か」
立体映像は「作れる」だけでは足りません。見る人が疲れない・酔わない設計が要る — ここが出発点です。
ABOUT ME

自己紹介 ② 映像技術の会社をやっています

株式会社リ・インベンション(2013年設立/前身 QXD は 2008年〜)代表
秋葉原UDX の 3Dシアター・3Dスタジオ担当(2006年〜)が出発点

VRライブHMD を40〜100台同時制御する没入型ライブ
8K VR撮影ライブ・舞台・文化財の 360°/180°3D 制作
2D→3D変換映画・シアター・プロモーション映像の立体化
生成AI × 映像制作AI の生成力とプロの審美眼を組み合わせる
3Dスキャンフォトグラメトリ・Gaussian Splatting
映像表示システム開発ドームシアター・多面スクリーン・同期上映
ABOUT ME

自己紹介 ③ これまでの仕事から

ムーミン
2010 ムーミン
北欧初の3D映画
ドラえもん
2014 ドラえもん
全編 2D→3D
新体感ライブ
2020– ドコモ
新体感ライブ 8KVR
NHK 8K3D
2024 NHK
8K3D ドームシアター
青森 空撮
2018– 青森
祭り 360°3Dシアター
2010Moomins and the Comet Chase(ムーミン谷の彗星)』北欧初の3D映画制作
2014映画『STAND BY ME ドラえもん』全編 2D→3D変換
2016ONE PIECE FILM GOLD』一部 2D→3D変換 / 生中継 180°3D VR
20188K VR撮影(アイドルライブ) / 青い森ホール「3D青森祭りの魂」360°3Dシアター
2020–21NTTドコモ「新体感ライブ CONNECT」 8K VR 制作
2024NHK 超体験フェス リアルタイム映像表示システム / NHK 8K3D ワンダービジョン
2025神席 ExWarp VR LIVE(渋谷FOWS)— ルミエール・ジャパン・アワード VR部門 特別賞
20263D VR撮影 / 相馬野馬追 VR / 生成AI プロモーション / プロジェクションマッピング
POSITION

この授業のポジション

これまで 「マルチメディアシステム」 という科目で、映像とインタラクティブ制作をまとめて扱っていました。
2026年度から 2つに分けました

科目扱う範囲学期
VMT(この授業)映像 — 撮る・編集する・エンコードする・公開する
ICC インタラクティブコンテンツ制作3Dモデリング・ゲームエンジン・インタラクティブ制作

関連科目:情報科学概論(ICS)= 映像・XR の理論と人間工学 / コンピュータゲーム(CGS)= ゲーム技術

分けた理由: 映像だけで 9週間かけて 1本作りきる時間が必要だったから。
GOAL

この授業の目的

① 映像技術の「全体地図」を持つ

撮る(360°・3D・ドローン)→ 作る(編集・VFX・生成AI)→ 届ける(圧縮・公開)。
バラバラに聞こえる技術が、1本の作品では必ず繋がっていることを体で理解する。

② 「いま現場で起きていること」に触れる

教科書に載る前の技術が、実際にどう使われ、何ができなくて、どう回避されているか。今日の後半がそれです。

③ 無料のツールだけで、作品を1本完成させる

大学に編集ソフトはありません。全部無料のツールと、みなさんのスマートフォンで、チームで1本作って上映します。

SCHEDULE

授業スケジュール(全9週)

火 3限 11:35–12:50木 2-3限 10:10–12:50
19/8 休講9/10 今日:イントロ+太田の制作事例
29/15 これまでの作品を観る9/17 機材の話・チーム分け・バーチャルプロダクション
39/22 撮影実習9/24 撮影実習
49/29 撮影実習10/1 撮ったものを見せ合う
510/6 編集10/8 編集② ・ツール紹介
610/13 休講(ICU祭)10/15 生成AI 回
710/20 圧縮・エンコード/最終作品の進め方10/22 チーム結成・企画
810/27 作品制作10/29 作品制作
911/3 作品制作11/5 上映会11/10(火)総括

※ 変更の可能性あり。確定版は毎回 Moodle と授業内で案内します。

GRADING

評価・課題・用意するもの

区分比率中身
出席(コメントシート)50%毎回、授業時間内に Moodle から提出
課題50%レポート2本程度(映像体験・映像技術)/ 最終作品(チーム制作)/ 講評参加
課題について レポートは 「映像体験」と「映像技術」で2本程度を予定。詳細は追って案内します。
最終作品は チーム制作(チーム分けは 9/17)。
用意するもの ノートPC(編集の回から)/ スマートフォン(撮影に使用)
編集ソフトも生成AIも、無料で使えるものを指示します。 どれを入れるかは 追って連絡しますので、今はまだインストールしないでください。

授業外学習の目安 225分/週。

RULE

受講のルール

これから 8つの作品を紹介します。話すのは技術そのものより、何を決めたか/何ができなかったかです。

各作品で必ず話すこと
① 何を作ったか ② どう作るか ③ 難しかったところ ④ 実際の映像 ⑤ まとめ
🚫 映像の撮影は禁止します 未公開の案件・制作中の映像・お客様からお預かりしている素材を含みます。
スマートフォン等での撮影・録画・SNS投稿は禁止です。見つけた場合は退出してもらいます。
映像を見せるのは 授業中のみです。配布資料からは再生できません。
⚠️ 授業中、勝手に退出しないでください 出入りは他の受講者の集中を妨げます。やむを得ない場合は事前に、または一言かけてから。

太田の制作事例 ① 仕事(映像関連)

1. まるり & ALMONDot GAIN VRライブ / 2. アーティストの 3D VR 撮影 / 3. 相馬野馬追 VR

作品 1 まるり & ALMONDot GAIN VRライブ

① 何を作ったか

  • 神席(KAMISEKI)"ExWARP" VR LIVE
    2025年7月18日・渋谷 FOWS
  • 上映型VR ExWARP — リアルのパフォーマンス × VR空間
  • 出演: まるりALMONDot GAIN
  • 観客 全員がHMDを着けて、同じ瞬間に同じ映像を見る
  • ルミエール・ジャパン・アワード2025
    VR部門 特別賞
会場
会場の様子(渋谷 FOWS)
この作品の 2D版(VRではないもの)が YouTube で公開されています。 まるり「HEI♡N」Special VR Movie − 2D ver.
作品 1 まるり & ALMONDot GAIN VRライブ

関連リンク

作品 1 まるり & ALMONDot GAIN VRライブ

② どう作るか

制作

  1. グリーンバックスタジオで 180°3D 撮影
  2. キーイング → CG背景と合成
  3. HMD 全台に 事前ダウンロード
  4. 会場で 一斉同期上映

当日

  • 同時体験 最大100名規模(劇場型)
  • 映像 8K〜 + 空間音響
  • HMD内の音 + 会場スピーカーを連動
「配信」ではありません。全員が同じ場所に集まって、別々のHMDで、同じ映像を同時に見る。ここが難所です。
作品 1 まるり & ALMONDot GAIN VRライブ

③ 難しかったところ — 100台を同期させる

課題現場の答え
ネットワーク民生ルーターは同時約30接続が上限 → 業務用APを複数持ち込む(1台25台目安)
会場の Wi-Fi使わない。専用ネットワークを持ち込む
配信方式ストリーミングは帯域が足りない → 全端末に事前DLしてローカル再生
電池予備機を全体の10%確保。上映尺に対する充電サイクルを設計
端末設定スリープ・境界(Guardian)・コントローラをすべて無効化
同期精度既存製品の公称は「100ms以内」= 会場スピーカーと合わせるには足りない

映像の仕事に見えて、半分はネットワークと電源の仕事です。

作品 1 まるり & ALMONDot GAIN VRライブ

④ そこで、自分たちで作ってみた(仮想100台での実測)

指標結果
台間のバラツキ2〜3ms
予定時刻との誤差p95 ≤ 2.5ms
Wi-Fi断(15秒)自律再生を継続→復帰合流
管理PCを強制終了7.4秒で復旧・HMDは止まらない
900MBの配布全100台 3.5秒
Quest 3 実機±0.42ms
設計の骨格 中央から毎フレーム指示を出すのではなく、
事前に配って、各端末が自律実行し、時刻だけを合わせる

開発中の教訓

  • OSのタイマーは信用できない(Windowsは15.6ms単位)
  • 「処理済み」の判定を間違えて 100台全部が開演コマンドを無視した
  • 再接続直後は、時刻を測り直すまで合流させない
作品 1 まるり & ALMONDot GAIN VRライブ

⑤ まとめ

まとめ
同じものを、大勢に、同時に届けるのは、映像を作ることとは別の技術。
  • 作品が良くても、当日動かなければゼロ
  • だから現場では「電池・発熱・ネットワーク・予備機」を先に設計する
  • みなさんの最終作品も、上映環境を先に決めてから作ると失敗しません
    (何で見せる? 音は出る? ファイル形式は?)
授業で見せるもの
※ 映像は授業中のみ。この資料からは再生できません。
作品 2 アーティストの 3D VR 撮影

① 何を作ったか

  • あるアーティストの 180°3D VR コンテンツ
  • 2026年3月26日・グリーンバックスタジオで撮影
  • 体験尺 約7分(インタビュー+弾き語り)
  • Apple Vision Pro 向けの高精細版も制作
この作品について アーティスト名・公開情報は伏せます。権利者からお預かりしている素材のため、 画像は加工したものを使用しています。
合成プレビュー
グリーンバック撮影 → CG背景合成のプレビュー
(人物は伏せています)
作品 2 アーティストの 3D VR 撮影

② どう作るか — 使ったカメラ

URSA Cine Immersive
Blackmagic URSA Cine Immersive
EOS R5C + Dual Fisheye
Canon EOS R5C + RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE
URSA Cine Immersive
  • デュアル 8K×8K センサー(片目 8160×7200)
  • 180°以上・固定焦点のステレオレンズ一体型
  • 90fps/16ストップ、Blackmagic RAW
  • Apple Immersive Video の 公式制作機材
EOS R5C + Dual Fisheye
  • 一眼の筐体に デュアル魚眼レンズ1本で VR180 3D
  • 8K 60p RAW(左右を半円で記録)
  • EOS VR Utility で正距円筒・SBS に変換
  • 最も安価かつ高画質な VR180 の選択肢
作品 2 アーティストの 3D VR 撮影

② データサイズが「その日撮れる長さ」を決める

ここが実務の律速 URSA Cine Immersive は本体に 8TB のストレージが内蔵されていて、 その容量が「その日撮れる長さの上限」を決めます。
片目 8160×7200 × 2眼 × 90fps を RAW で記録するので、1カットごとにギガ単位で積み上がる。
  • 現場では SSD への吸い出し計画(誰が・いつ・どこで移すか)を撮影スケジュールと同時に立てる
  • 「カメラの性能」より「データを置く場所と移す時間」で撮影できる量が決まる
  • みなさんがスマホで4Kを撮るときも、まったく同じ問題が起きます
撮影前に必ず確認: 空き容量/カードの書き込み速度/バックアップ先/移す時間
作品 2 アーティストの 3D VR 撮影

③ 難しかったところ — 撮り直しが効かない

撮影当日: 拘束6時間・実撮影2時間

7:00機材セットアップ
8:00アーティスト入り
9:00関係者入り
10:00撮影開始
12:00撮影終了
13:00撤収

スタッフ6名。編集・CG合成に約1ヶ月。

現場で決めていること

  • ISO 400 に固定(初期値800から変更)
  • カット割りより素材量を優先し、回し続ける
  • 被写体は「HMDを着けて腕を伸ばした先」に置く
  • 収録前に 左レンズが左目かを必ず確認
  • スタッフが映り込みやすい(前方180°が全部画角)
立体は、撮ってからでは直せない。
作品 2 アーティストの 3D VR 撮影

③ グリーンバック撮影で「避けてほしいこと」

避けること理由
緑・青の服、光沢のある衣装背景と一緒に抜けて、体に穴が空く
背景に近づけすぎる緑の照り返しが肌と髪に乗る。2m 以上離す
細かい髪・透ける素材・煙境界がきれいに抜けない
背景のシワ・影・照明ムラ抜きが不均一に。背景は均一に照らす
速い動き・激しいブレブラーで輪郭が緑と混ざる
床のグリーンに座る/踏む足元が消える。接地部分が最も破綻する
GBスタジオ構成
カメラをトラッキングし、同じ視点のCG背景をリアルタイム描画。
現場で「合成後」を確認しながら撮る
作品 2 アーティストの 3D VR 撮影

④ 実際の映像 / ⑤ まとめ

魚眼→SBS→HMD
2つの魚眼像 → 歪みを取って左右に並べる(SBS)→ 左を左目・右を右目に表示
授業で見せるもの
※ 映像は授業中のみ。この資料からは再生できません。
「あとで直せること」と「撮影時にしか決められないこと」を分ける。 色・明るさ・つなぎ方 → あとで直せる/立体の視差・カメラと被写体の距離・フレームに何が入るか → 撮影時にしか決められない
作品 3 相馬野馬追 VR

① 何を作ったか

  • 国指定 重要無形民俗文化財(福島県 相馬市・南相馬市)
  • 1000年続く神事を 8K・3D の VR に
  • 撮影 2026年5月23〜25日の3日間
  • 仕様: 180°/360°・3D立体・8K推奨・60fps以上・アンビソニックス
  • 相馬家34代当主の監修
  • いま編集の真っ最中(102カット)
相馬野馬追
相馬野馬追(2026年5月・撮影素材)
作品 3 相馬野馬追 VR

コンセプト「音が生まれ、走り、祈りになる体験」

時間内容
Ⅰ 静0:00–2:00完全な闇。水滴のような音 → 心拍 → 遠くで法螺貝が鳴る
Ⅱ 動2:00–4:30白鉢巻を締める。甲冑の金属音。馬に跨った瞬間、視線の高さが変わる
Ⅲ 爆4:30–6:30甲冑競馬の蹄音、神旗争奪戦。判断が消え「無我」へ
余韻6:30–7:30砂塵が静まり、風だけ。最後は無音
説明する映像ではない。歴史解説でも観光映像でもない。
VRならではの価値=騎馬武者の視点。観客席は現地で体験できるが、馬上はほぼ誰も体験できない。
作品 3 相馬野馬追 VR

② どう作るか — 使った機材

Osmo Nano
DJI Osmo Nano
52g・甲冑POV
アクションカメラ
アクションカメラ
低位置・地面
超小型カメラ
超小型カメラ
装着用
超小型カメラ 上位
同・上位機
マウント
マウント金具
用途機材
8K 3D VR180(主役の立体映像)Canon EOS R5C + RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE
会場全景 360°DJI Osmo 360(8K30)
騎馬武者POV(甲冑に装着)DJI Osmo Nano(52g)
空撮DJI 360°対応ドローン(455g機・航空局の許可取得済)
音声アンビソニックマイク(空間音響)
作品 3 相馬野馬追 VR

② シーンごとに、カメラを変える

シーンVR固定馬上(POV)地面・低位置ドローン
総大将出陣式
お行列✅ 2〜3か所✅ 遠景
甲冑競馬✅ 3か所✅ コース内地面競技外で
神旗争奪戦✅ 櫓+地上競技外で
野馬懸✅(御小人)競技外で
早朝・準備時間✅ 積極活用

3日間・複数会場・同時進行。誰がどのカメラを持ち、いつ付け替えるかまで事前に割り振ります。

作品 3 相馬野馬追 VR

③ 難しかったところ — 甲冑にカメラを付ける

許可は三層

執行委員会 → 騎馬会 → 個別の家(甲冑の所有者)

NG になった方式

  • 兜マウント …「かっこ悪い」+競技では兜を外す
  • 両面テープ … 漆が剥がれる
  • 穴・ボルト・接着剤 … 家宝への損傷。絶対不可

→ 採用は クリップ式+落下防止紐、喉輪マグネット、鎧直垂のグロメット穴

喉輪マグネット
検討したマウント
クリップ式
採用したクリップ式
作品 3 相馬野馬追 VR

③ カタログスペックは、あてにならない

機材・モード連続録画
Osmo Nano 2.7K30+耐久モード1時間OK(採用)
Osmo Nano 4K60発熱で短縮
Osmo 360 8K3037分で終了(電池残20%)

→ 実運用の連続撮影は 約30分が上限。長時間シーンは予備バッテリー必須。

現場の工夫

  • LEDを消す(甲冑装着時に光るとバレる)
  • 操作音をミュート(神事の空気を壊す)
  • 冷えピタを貼る(発熱対策)
  • 予備電池 各3〜4本/SDカードは V90
実機で必ず負荷テストする。カタログスペックは目安に過ぎない。
作品 3 相馬野馬追 VR

④ ドローンで撮る — 許可を取れば、撮れる

イベント上空(観衆の上)は原則禁止です。でも 事前に申請して許可を取れば、撮れます。
野馬追では 国土交通省の飛行許可+主催者の書面許可を取って、実際に空撮しました。
シーンドローン備考
早朝・準備時間帯✅ 撮影した雲雀ヶ原・小高神社の会場全景。いちばん自由に飛ばせる
会場俯瞰(競技の合間)✅ 撮影した馬がいない時間帯を狙う
お行列⚠️ 遠景から沿道に観衆。馬列には近づかない
甲冑競馬・神旗争奪戦の競技中馬が驚くため。安全が最優先

申請の流れ: 国土交通省(航空局)へ1〜2か月前に申請 → 主催者(執行委員会)と調整 → 市へ事前相談 → 当日は主催者の安全指示に従う。
「できない」ではなく「手続きをすれば、できる」。逆に手続きを飛ばすと一発でアウトになります。

作品 3 相馬野馬追 VR

④ 祭りを空から撮る — 青森の事例

青森 ドローン空撮
桜とドローン空撮の現場(青森・360°VR撮影)

青森では 「3D青森祭りの魂」(青い森ホール/360°3Dデジタル映像シアター)を制作しました。

  • ねぶた祭りのような「光の彫刻」は、平面の動画では一面しか記録できない
  • ねぶたは 祭りの翌日に大半が解体・廃棄される
  • 記録そのものが保存になる

相馬野馬追・真葛焼・ねぶた祭りを事例に「XRで日本文化を記録・表現する」を扱った回です。

作品 3 相馬野馬追 VR

⑤ オープニングCG — AIと手作業の分担

九曜紋
月明かりの九曜紋

オープニング映像・23.5秒

  1. 馬が突進 → ホワイトアウト(4秒)
  2. 霧が7秒かけて晴れ、闇に 月明かりの九曜紋(8秒)
  3. 9つの円を青い光が一周 → 発光 → 消灯(5.5秒)
  4. 筆文字の題字が飛来しカメラを貫通 → 白(6秒)

VR版では題字が 耳の横を実際に通り抜ける

担当やらせること
画像生成AI夜の神社の風景(実写写真に忠実に)
動画生成AI馬の突進・霧が晴れる・終幕のホワイトアウト
Python(数値計算)九曜紋の9つの円・光が一周する動き
ブラウザで描画筆文字の題字(原画をパス化して5文字に分割)
作品 3 相馬野馬追 VR

⑤ オープニングCG — 3回作り直した

家紋の円の数と、漢字は、AIに描かせない 必ず崩れるからです。ここは「正確さが命」の部分なので、プログラムで決定論的に描きます。
指摘対策
v9冒頭がガタつく全工程を24fpsに統一(素材ごとにfpsが違っていた)
v9神社がAIっぽい実写写真に忠実な生成に切り替え
v10動画生成の尺の上限に当たるその部分をプログラムのCGに置き換え

AIは微妙にカメラを動かす → 星を追跡して、映像側で止めてから合成している。
「AIっぽさ」は具体的に指摘できる: 文字が崩れる/円の数が違う/カメラが勝手に動く/質感が均一すぎる

授業で見せるもの
※ 映像は授業中のみ。この資料からは再生できません。
作品 3 相馬野馬追 VR

⑤ まとめ — 機材選定の6原則

  1. 発熱と連続撮影時間は、実機で必ず負荷テストする — カタログスペックは目安に過ぎない
  2. 音・LEDは、場によっては必ずミュート — 操作音が空気を壊す
  3. F値は無闇に絞らない — 高画素センサーは F5.6 以上で回折ノイズが目立つ
  4. 装着は「外見」と「物理損傷」の両軸で許可を取る
  5. 付け替えのタイミングは、事前に担当者を割り振る — 当日の即興は失敗する
  6. 冷えピタのような汎用品を侮らない — 発熱対策の安価で確実な手段

→ 9/22 からの撮影実習でも、この6つをチェックリストにします。

授業で見せるもの
(全編たたき・31分/抜粋)
※ 映像は授業中のみ。この資料からは再生できません。

太田の制作事例 ② 生成AI

4. 学生とつくった AI MV / 5. GRANRODEO AIプロモーション / 6. 真葛焼 プロジェクションマッピング
7. サッカー 2D→3D 変換 / 8. 生成AIライブ映像(3面スクリーン)

作品 4 学生とつくった AI ミュージックビデオ

① 何を作ったか

  • ICU「ものづくり入門」(PHY107)第8回
  • 2026年6月5日・3時間の授業のなかで
  • 履修者 15名と、AI で曲と映像を作る
  • 完成: 25カット・4分27秒の MV
  • 学生が担当カットの絵を設計し、AI が動かす
AI MV のカット
学生が作ったカットの1枚
作品 4 学生とつくった AI ミュージックビデオ

② どう作るか — 6つのフェーズ

#やることツール時間
1曲を作るSUNO15分
2歌詞を全員で共同編集20分
3歌詞と時間を対応づける(音声認識)faster-whisper10分
4スプレッドシートで 25カットを分担Google Sheets15分
5各自が担当カットの絵を作る画像生成AI40〜60分
6静止画 → 動画(25本)Kling50〜60分
7連結・BGM・字幕焼き込みffmpeg20分
当日中には完成しません。生成待ちが積み上がるため、完成は後日1〜2日。
→ 生成AIを使うときは「投げてから待つ」前提でスケジュールを組む。
作品 4 学生とつくった AI ミュージックビデオ

③ 難しかったところ — 実際に踏んだ5つの罠

何が起きたか対処
並列で生成する完成順がバラバラで、別カットの動画が混ざる。エラーは出ない1本ずつ生成する
実在の作家名を書く「特定の作家のスタイルへの言及」で即拒否視覚的な特徴で書く
画面の誤クリック設定が消え、別の画面に飛ぶ自動操作は対象を厳密に指定
古い中間ファイルが残る差し替えたのに古い映像が出るキャッシュを消してから作り直す
ファイル名の表記ゆれrunwway cut20prt2 .png.png命名規則を先に決める
もうひとつ:○○をなくして」という否定の指示は逆効果。
「白いクマを想像するな」と言われると白いクマが浮かぶのと同じ。やってほしいことを書く。
作品 4 学生とつくった AI ミュージックビデオ

④ 実際の映像 / ⑤ まとめ

授業で見せるもの
(4分27秒/冒頭)
※ 映像は授業中のみ。この資料からは再生できません。

見どころ: ① 25カットの絵柄をどう揃えたか ② 字幕が歌にぴったり合っている理由(音声認識で歌詞の時刻を実測している)

AIは手間をゼロにする道具ではなく、手間のかけどころを変える道具。
  • ボタンひとつで曲と映像ができたように見えて、裏の準備がその何倍もある
  • 学生がやったのは「担当カットの絵を設計する」— つまり 判断
  • この日いちばん使った力は、何を選び、何を伝えたいかを決める力
作品 5 GRANRODEO「ChaosBlue」AIプロモーション

① 何を作ったか

ショート版
AIで作ったショート版の1コマ
ロング版
ロング版(30秒)の1コマ
  • ロックユニット GRANRODEO の 10thアルバム 『ChaosBlue』(2026年2月18日発売)のプロモーション映像
  • 素材は ジャケット写真・アーティスト写真の静止画のみ追加撮影ゼロ
  • ロング版(高品質・30秒)+ ショート版(5〜10秒 × 30〜100本)の2軸
作品 5 GRANRODEO「ChaosBlue」AIプロモーション

② 「アー写」から動画へ

用語:アー写(アーしゃ)とは アーティスト写真の略。音楽業界での宣材写真のこと。 ジャケット・公式サイト・雑誌・店頭・SNS — 宣伝に使う写真はほぼこの1セットから展開されます。
スタジオで1日かけて撮り、そのあと数ヶ月〜1年、あらゆる媒体で使い回されます。

つまり 「すでに存在していて、権利もクリアで、高解像度の素材」が必ずある — ここが出発点。

  1. アー写・ジャケット写真(静止画)を用意
  2. 画像生成AIで 中間フレームを作る
  3. image-to-video で数秒のクリップに
  4. アップスケール・カラーグレーディングで仕上げ
  5. ショート版は同じ工程を 自動化して量産
作品 5 GRANRODEO「ChaosBlue」AIプロモーション

③ 品質と頻度は、別の作り方 / ④⑤

ロング版(30秒・1本)ショート版(5〜10秒 × 数十本)
目的作品の顔になる1本毎日出す・接触回数を稼ぐ
作り方人が磨く(演出・拡大・色調整)量産を自動化する
品質の基準完成度「破綻していない」こと

量産は ブラウザ操作の自動化で1本ずつ順番に。1本ずつしか投げられない(並列だと取り違える)/生成に数分 → 夜間に流す失敗の理由を必ずログに残す

授業で見せるもの
(ロング版30秒) (ショート版)
※ 映像は授業中のみ。この資料からは再生できません。
「AIの生成力 × プロの審美眼」— たくさん出せるから、選べる人の価値が上がる。
作品 6 真葛焼 プロジェクションマッピング

① 何を作ったか

  • 宮川香山 眞葛ミュージアム「崖ニ鷹大花瓶」
  • 3Dプリントした原寸大の花瓶に映像を投影
  • 約2分・60fps・縦4K(プロジェクタを90°回転)
  • 演出家の絵コンテに基づく 23カット
  • 展示は2026年10月3日から
作品 6 真葛焼 プロジェクションマッピング

② どう作るか / ③ 実物はAIに描かせない

  1. Blender で3Dの奥行き・マスクを自動レンダリング
  2. 色のパレットを自動解析
  3. 画像生成AI でカットごとのキーフレーム
  4. 花瓶を固定座標に合成(← AIには描かせない)
  5. image-to-video で動画クリップに
  6. Real-ESRGAN で4Kへ拡大 → ffmpeg で組み立て
  7. 現場では専用ソフトで実物の形に合わせて投影

カット構成を1ファイルで管理 → 演出家が 15→23カットに増やしても組み直さずに済んだ

  • 花瓶は実在する。AIが描くと形が変わる → 固定座標に合成
  • 鷹はマスター画像を1枚作り、全カットの参照に → 同じ個体・同じ羽色
  • 動画にする前に 静止画の段階で合意(1本5〜10分 × 23カット)
作品 6 真葛焼 プロジェクションマッピング

④ 実際の映像 / ⑤ AIに指示する5つの鉄則

授業で見せるもの
(1カット・8秒・縦)
※ 映像は授業中のみ。この資料からは再生できません。

見どころ: ① 縦長の映像(プロジェクタを90°回して花瓶の形に合わせる) ② 花瓶の位置がカット間でズレない ③ 背景・鷹・光はAI生成

  1. サイズと座標は画像で渡す — ✕「花瓶を上の方に」→ ○ 位置を白く塗ったマスク画像
  2. スタイルは完成イメージ1枚で渡す
  3. 参照画像の解像度を落とさない — 低解像度を入れると低品質しか返ってこない
  4. 動画にする前に静止画で合意する
  5. 制約は数値で書く — ✕「小さく」→ ○「高さ=フレームの30%、中心(0.29, 0.52)」
完成画像1枚と仕様表1枚があれば、AIは最短距離で答えに辿りつく。
作品 7 サッカー映像の 2D → 3D 変換

① 何を作ったか / ② どう作るか

① 何を作ったか

  • ふつうの 2D映像を、立体(3D)に変換する
  • 『STAND BY ME ドラえもん』全編、『ONE PIECE FILM GOLD』一部でもやってきた仕事
  • いまは サッカー映像の8K立体化を進行中
  • 従来は市販ソフト+自社開発プラグイン。それが古くなり、オープンソースだけで置き換えるプロジェクト

② どう作るか

  1. 深度推定AI で「どこが手前で、どこが奥か」を推定
  2. その奥行きをもとに もう片方の目の視点をずらして作る
  3. ずらすと 写っていなかった部分に穴が空く
  4. その穴を AIで埋める(インペイント)
  5. 視差の量を調整して 快適に見える範囲に収める

仕上がりは「なんとなく立体に見える」で判断しない。左右の構造の一致・実測の視差・穴の有無を 数値で測って合否を出す。

作品 7 サッカー映像の 2D → 3D 変換

③ どこで見られるか — 実際の展示

三井不動産 SAMURAI BLUE 3D Experience Presented by SAISON 2026年5月29日(金)〜7月20日(月・祝)/MIYASHITA PARK「or」(渋谷)
3面スクリーンの超最新3D LED映像+360°サラウンド音響による没入型シアター。ワールドカップ期間はパブリックビューイングも実施。

3Dディスプレイの話:この展示では 大型のLEDディスプレイを使っています。 映画館のようにプロジェクタで投影するのではなく、LEDパネル自体が発光するので、明るい場所でもコントラストが落ちません。 屋外・商業施設での立体映像はこの方式が主流になりつつあります。 LEDディスプレイの設計・施工は ヒビノ(ヒビノクロマテック)などの専門会社が担当します。

作品 7 サッカー映像の 2D → 3D 変換

⑤ まとめ — 立体の「快適さ」は測れる

立体の「快適さ」は、視差の量で決まる。そしてそれは測れる。
  • 視差が強すぎると疲れ、弱すぎると平面に見える
  • スクリーンの大きさ・見る距離・その人の瞳孔間距離(IPD)によって、快適な範囲は変わる
  • だから「作ってから確かめる」のではなく、設計の段階で計算する

立体・VR・大画面の映像は、人の身体に負荷をかけます。作る側は「見せ方の限界」を知っておく必要があります。

作品 8 生成AIライブ映像(コの字3面スクリーン)

① 何を作ったか

  • コの字型に囲む3面スクリーンへの投影映像
    正面 5400×2300mm(プロジェクタ2台)+左右各1台
  • 3分弱の ライブハウス映像
  • 撮影ゼロ。曲も映像も全部AI生成
  • マスターは 8192×4096 の全天球形式
  • 視点は客席前方、目線1.55m、ステージまで5m
クライアントからの要望BOØWY のようなバンドで」
ビールを飲むシーンを入れてほしい」
→ 実在バンドの名前はプロンプトに書けない(拒否される)。 視覚的な特徴に翻訳して伝えるのが最初の仕事になります。
キャラクターシート
4人のキャラクターシート(AI生成)
作品 8 生成AIライブ映像(コの字3面スクリーン)

② どう作るか

曲(SUNO)→ 拍・小節・歌唱のタイミングを実測 → キーフレーム66枚を画像生成 → 4倍に拡大 → 全天球に変換 → 3面に分割 → 1本ずつ動画生成(鎖のようにつなぐ)→ 照明を後から乗せる → 連結
キーフレーム
キーフレーム(各カットの静止画)を先に全部作り、隣同士をつなぐように動画を生成する

曲の拍を実測しているので、映像の切り替わりが音とズレません。

作品 8 生成AIライブ映像(コの字3面スクリーン)

③ 難しかったところ / ④⑤

判断理由
1クリップ = 1つの状態だけ途中で状態を切り替えると、5段階で27%・3段階で43%しか成功しない
速い照明はAIにやらせない3面でズレる。合成後に拍のデータを基準に一括で乗せる(誤差9ms)
生成物は 確認するまで信用しない別のクリップが混ざる事故が起きる
リップシンクは 測れない口の動きと声の相関 r=0.003。手順を固定した目視に落とす
夜に5本投げて、朝には全滅していた。失敗の理由が記録されていなかったので、翌朝は何も分からなかった。
束で投げる前に1本で疎通を確かめる/失敗の理由を必ず残す。
授業で見せるもの
(PV版・21秒)
※ 映像は授業中のみ。この資料からは再生できません。
AIモデルは4つほど。その周りにあるスクリプトが数十本。 「AIで作る」の実態は、AIを呼ぶ前後の段取りを作ること。ここが人間の仕事です。
SUMMARY

8作品に共通するもの

VRの仕事生成AIの仕事
共通するもの撮る前に決めるAIに任せない部分を決める
失敗の場所電池・発熱・許可・ネットワーク取り違え・一貫性・文字の崩れ
判定の方法実機で測る(負荷テスト・同期精度)数値で測る(視差・構造の一致・拍)
人間の仕事何を撮るか・どう見せるか何を選ぶか・どこで止めるか
どちらも「撮る・作る・届ける」の三層に乗っている。 この授業では、その三層を9週間で一通り通ります。
MINI WORK

ミニワーク(20分)

3人でグループをつくってください。
20分で、①自己紹介②今日見た中でやってみたいと思った技術 について話してください。

話すこと

  1. 自己紹介 — 名前/希望するメジャー/映像や写真の経験(なくてOK)
  2. やってみたいと思った技術 — どれ? なぜ?
360°/VR180の3D撮影100台同期の上映グリーンバック+CG合成
AIで曲と映像を作る静止画から動画を作るプロジェクションマッピング
2D→3D変換生成AIによるライブ映像ドローン撮影

最後に、グループでどんな話をしたかを発表してもらいます。

PLAYLIST

上映リスト(授業中のみ・太田のPCから再生)

#作品流す量
1作品2 アーティストの 3D VR(ラフカット)9分44秒冒頭1分
2作品3 相馬野馬追 VR(全編たたき・2D版)31分抜粋2〜3分
3作品3 オープニングCG v9 → v1220秒 → 23.5秒両方
4作品4 AI MV『ハッピーフライデーの修羅場』4分27秒冒頭2分
5作品5 GRANRODEO ロング版/ショート版30秒/10秒両方
6作品6 真葛焼 1カット8秒ループ
7作品8 生成AIライブ映像 PV版21秒全部
長い映像(#2・#4)は事前に抜粋位置を決めておく #2 は 1.8GB あり、その場でのシークが重い。流す位置を決めてからプレイヤーを開いておくこと。

※ 映像はすべて授業中のみの上映です。配布資料からは再生できません。

NEXT

次回から

内容
9/15(火)これまでの作品を観る(前身科目の学生作品ほか)
9/17(木)使用する機材の話・チーム分け・バーチャルプロダクション
9/22〜10/1撮影実習(3週間)
10/6編集
9/17 に チーム分けをします。出席をおすすめします。
使うソフト(編集・生成AI)は すべて無料のものを、追って指示します。
COMMENT SHEET

コメントシート

  1. 自己紹介
    • 希望する(している)メジャー
    • 好きな映像(作品・ジャンル・YouTube でも可)
    • 撮影してみたいもの
  2. 今日いちばん驚いた作品と、その理由
  3. いま自分が持っているもの
    • カメラ(一眼/アクションカメラ/360°/ジンバル/三脚/マイク)
    • 編集ツール(使ったことのあるソフト・アプリ)
    • 生成AIのサブスク(契約しているもの)
    • PC(OS・だいたいのスペック)
  4. 太田への質問
提出について Moodle から提出。出席の記録を兼ねています。
基本的に、授業時間内に提出してください。
当日24時以降は受け取りません。

3番は、撮影実習とチーム分けの計画に使います。「何も持っていない」でも全く問題ありません。

おつかれさまでした

ISC151 映像情報メディア技術基礎
太田啓路 ohtak@icu.ac.jp
次回: 9月15日(火)3限

この資料は受講生限定です。スライド・映像の撮影および再配布を禁止します。